「紀元節」復活に反対する声明
新聞の伝えるところによれば、佐藤内閣は二月二日の閣議において、旧「紀元節」を建国記念日として復活する方針を決め、国民の祝日改正法案のなかにふくめ、近く国会に提出するという。いままでにも「紀元節」復活の動きに対しては、歴史研究者・歴史教育者をはじめ、国民各層のあいだから、しばしば強い反対が表明されていた。それにもかかわらず、それら多くの意見を無視して、政府がにわかに、このような態度をとることは、はなはだ遺憾である。
旧「紀元節」である二月十一日は、いうまでもなく神武天皇が橿原で即位したと伝えられる日であるが、それが事実と考えられないことは、明治以後の歴史学の研究成果にてらして明白である。これを建国の日とすることは、科学の否定であるだけではなく、科学の基礎の上に立っておこなわれている歴史教育をゆがめるものである。
かりに神武天皇の即位の伝説をみとめたばあいでも、「紀元節」は天皇を支配者とする古代専制国家成立の記念日として意味があるにすぎない。古代においては、国民の大部分は政治的に無権利・社会的に不自由であった。こうした古代国家の記念日を、主権在民の憲法をもつ現在の日本国民の祝日とすることは、絶対に賛成することはできない。
「紀元節」の復活は、科学を否定し教育をゆがめるにとどまらず、憲法の精神にもそむくことは明らかであり、軍国主義復活の温床となるおそれがある。われわれは、政府が「紀元節」復活の計画を放棄することを、強く要望するものである。
一九六五年二月六日
歴史科学協議会委員会
0コメント